警備員の高齢化にどう備えるか|「適正な配置」を決めるデータ設計

「警備員が集まらないので、来年度から単価を上げさせてください」
警備会社からそう言われて、妥当性を確かめる手立てがないまま稟議を書く。中堅〜大企業の総務部門・施設管理部門で、毎年繰り返されている場面です。
警備員のうち60歳以上は47%、70歳以上は20.9%を占めます(2024年時点・警察庁「令和6年における警備業の概況」)。有効求人倍率は警備業が6.70倍で、全職業平均の1.10倍とは6倍の開きがあります(2025年9月・警察庁「省力化投資促進プラン ―警備業―」2025年12月)。
人が戻ってくる見通しは、統計のうえでは立っていません。
この記事では、警備員の高齢化と人手不足が続く前提に立ったうえで、警備の配置を何を根拠に決めるかを整理します。機器の選定や設置工事、製品比較には踏み込みません。
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警備員の高齢化と人手不足は、どこまで進んでいるのでしょうか

警備員の60歳以上は47%、70歳以上は20.9%を占め、有効求人倍率は警備業6.70倍に対して全職業平均は1.10倍です。国は警備業の労働生産性を2029年度までに25%引き上げる目標を掲げています。
年齢構成を並べると、現場を支えている層がどこかがはっきりします。
| 年齢層 | 構成比 |
|---|---|
| 29歳以下 | 10.4% |
| 30〜39歳 | 9.0% |
| 40〜49歳 | 13.7% |
| 50〜59歳 | 19.9% |
| 60〜64歳 | 12.7% |
| 65〜69歳 | 13.4% |
| 70歳以上 | 20.9% |
20代と30代を合わせても19.4%です。半数が60歳以上で、5人に1人が70歳以上。今の人数を維持する前提そのものが崩れています(2024年時点・警察庁「令和6年における警備業の概況」)。
労働災害も減っていません。2024年の死傷災害は2,088件、殉職者は28名で、うち約半数は交通誘導の現場です(厚生労働省 死亡災害報告・労働者死傷病報告)。
警備は削れない固定費です。人が減り、単価は上がる。この前提で予算を組み直す番が、発注する側に回ってきています。
AIカメラを入れれば、警備員は減らせるのでしょうか

国が示す省力化の取組基準は「省力化製品の導入による適正な警備員の配置」です。削減ではなく適正化と書かれています。機器は見張りの目を増やしますが、何人をどこに置くかまでは決めません。
同プランは施設警備の省力化製品として警備ロボット、警備ドローン、バーチャル警備システム、AI警備システムを挙げています。
AI警備システムの説明はこうです。防犯カメラに映る人の行動をAIが認識して異常を即時通知し、人の目によるモニター監視が不要になる。見守りや混雑状況の把握、人数カウントにも使える。
注目したいのは、国の資料が同じカメラを防犯と統計の両方に使う前提で書いている点です。カメラは防犯設備であり、同時に施設の状態を数値化する計測機器でもある、という整理はすでに公的な文書に載っています。
ただし、人手不足を機器で埋めたつもりでも、翌月に「では警備を2人減らせますか」と問われて答えられる施設は多くありません。減らせるかどうかは、いつ・どこで・何が起きているかの記録がないと判断できないからです。
検知の仕組みだけ先に入り、記録の設計が後回しになる。ここが省人化の話が空回りする分岐点です。
なぜ発注する側に記録が残らないのでしょうか

警備業者の90%以上は警備員100人未満の中小企業で、ITツールの導入が進んでいません。省力化の補助制度も中小企業向けに整備されているため、発注する大企業側は制度の対象外に置かれています。
これは警備会社の怠慢ではなく、事業構造の問題です。90%以上が警備員100人未満という規模では、システム投資の体力は限られます(警察庁「省力化投資促進プラン ―警備業―」2025年12月)。
中小企業省力化投資補助金や中小企業デジタル化・AI導入補助金といった制度も、支援先は警備会社の側です。
結果として何が起きるか。高齢化と人手不足で現場が細っていく一方、発生実態の記録は警備会社の日報や管制システムに閉じ、発注する施設側の手元には残りません。
契約先が変わればその記録も引き継がれない。毎年の単価交渉を、実態のデータを持たない側が受ける構図になります。
動かす順番は決まっています。警備会社のIT化を待つのではなく、施設側が自分の敷地で起きていることを自分で記録できる状態を作る。判断材料は、判断する人の手元にないと使えません。
「適正な配置」の根拠になる記録とは何でしょうか
必要なのは、時間帯別の通行量、滞留と混雑、行列、車両の動き、迷惑行為の検知件数です。既存の防犯カメラの映像から取得でき、どの時間帯のどの場所に人を厚くするかの判断に直接使えます。
映像から何を数えるのか
指標は、その数字で何を決めるのかとセットで選びます。取れるものを全部取る設計にはしません。
| 取る指標 | 取り方 | 何を決めるために使うか |
|---|---|---|
| 時間帯別の通行量 | ラインクロス(映像上に引いた線を人が横切った回数を数える方式) | 時間帯ごとの必要人数 |
| 滞留・混雑 | エリア内の滞在人数、ヒートマップ(人が集まった場所を色の濃さで示す図) | 誘導員を置く場所 |
| 行列 | 待機人数、待ち時間 | 受付・入場口の増員判断 |
| 車両の動き | 通行量、進入の検知 | 歩車分離と導線の見直し |
| 迷惑行為・異常行動 | 検知件数の推移 | 巡回の頻度と時間帯 |
大事なのは、指標が施策の前後を比べられる形で残ることです。巡回を増やした翌月に検知件数が動いたのか、季節要因なのか。前月比という物差しができれば、次の配置は前年踏襲から離れられます。
数えた数字はどこまで信頼できるのか
当社が設置済みの防犯カメラの映像をAPI連携で取得して人数を自動カウントした検証では、複数のロードサイド店舗で実測誤差±2%以内、IN/OUTのバランスは98〜102%に収まりました。
屋内型の店舗はRMSE評価で実用水準を確認し、精度改善を続けています(当社実績・複数案件のレンジ)。
この水準なら、時間帯ごとの増減を根拠に配置を動かせます。追加のハード投資は原則として不要で、既存カメラとAPI連携する構成から始められる点も、稟議を通しやすくします。
防犯の情報と、施設の統計は分けて持つ
同じカメラを二重に使うなら、扱う情報の線引きを先に引きます。防犯の領域は、犯罪や迷惑行為の発生情報を防犯責任者と限定された管理者だけが扱う。統計の領域は、人流や混雑を個人が特定できない形にして施設の改善に使う。
目的、撮影範囲、保存期間、閲覧権限、匿名化の処理をあらかじめ文書にしておく。この線引きが曖昧なまま話を進めると、プライバシーへの懸念が導入の議論そのものを止めます。
何を取り、誰が見られ、どこまで保持するかを決めるのは、技術の話ではなく合意形成の準備です。
どこから始めれば、判断に使える数字が出るのでしょうか
全拠点への展開から入らず、対象を1エリアに絞って90日程度の検証から始めます。当社の標準的な進行では要件定義に約3か月、PoCに約2か月、本番構築まで通算で約9〜12か月が目安です。
範囲を絞る理由は、費用を抑えるためだけではありません。何を測れば会議の中身が変わるのかは、実際に数字を出してみるまで分からないからです。
指標を10個並べても、翌月の判断に使われるのは2つか3つ。使われなかった指標を見極めてから広げるほうが、結果的に早く着地します。
当社は、いきなり全社基盤を提案せず、小さな分析やPoC(概念実証。本格導入の前に小規模で効果を確かめる工程)で成果を見せてから実装・全社展開へ広げる進め方を取っています。
投資判断のハードルを下げつつ、可視化で止めずに実装まで運ぶための順番です。
配置を説明できるようになると、何が変わるのでしょうか
単価交渉と配置計画に、発生実態の記録を持ち込めるようになります。数字が共通になれば、警備会社とも同じ物差しで人員の増減を話せます。経営への説明も、月次の記録をそのまま根拠に使えます。
総務の担当者は、単価の見直しを提示されたときに、その時間帯に実際どれだけ人と車が通り、何件の検知があったかを示せます。値切るためではなく、必要な場所に必要な人数を置くための材料です。
警備計画の担当者も、前年の配置表を開かずに済みます。人を厚くする場所と薄くできる場所を、記録から決められるようになります。
経営会議に出す資料も、その都度作り起こす手間が消えます。月次のレポートが積み上がるため、警備費の増減の説明、設備投資の判断、次年度計画の立案に同じ記録をそのまま使えます。
警備を「価格の交渉ごと」から「配置の設計」へ移せるかどうかが、固定費の質を分けます。
まとめ
警備員の半数が60歳以上、有効求人倍率は全職業平均の6倍。人が戻る前提はもう置けません。国の省力化の基準も削減ではなく「適正な配置」であり、機器を入れるだけでは何人をどこに置くかは決まりません。
警備を担う会社の90%以上は中小企業で、記録は警備会社側に閉じがちです。だからこそ、発注する施設側が自分の敷地の発生実態を記録できる状態を先に作る。既存のカメラから時間帯別の通行量と滞留、検知件数を取り、防犯の情報と統計は分けて持つ。対象を絞って90日で一度出せば、次の配置は根拠で決められます。
データの整理や分析基盤の構築について、何から手をつければよいかわからない場合や、自社の状況を整理したい場合は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 今ある防犯カメラのままで始められますか?
A. 多くの場合、既存カメラの映像をAPI連携で取得する構成から始められます。当社の検証でも追加のハード投資は原則不要でした。
ただし機種や設置角度、通信環境で可否が変わるため、まず現在の設備構成の確認から入ります。
Q. プライバシーへの懸念にはどう備えますか?
A. 防犯の領域と統計の領域を分け、目的、撮影範囲、保存期間、閲覧権限、匿名化の処理を文書化して掲示します。
個人の特定を伴う運用は防犯目的に限り、登録基準と見直し時期もあわせて定めておきます。
Q. 警備会社との役割分担はどうなりますか?
A. 検知後の駆けつけと現場対応は警備会社が担います。発注側が持つのは、何を記録するかの設計と、その数字で配置を判断する部分です。
双方が同じ数字を見る状態にすると、人員の増減の協議が早く済みます。
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